HOME > みんなの声 > 卒業生の声 > 岡本昌克さん(鍼灸院開業)
最近は40代、50代の方が鍼灸学校に入学するケースが多く見られるようになって来ました。第二の人生の職業として鍼灸師の道を選ばれた岡本さん。落ち着いた雰囲気の裏には鍼灸にかける情熱が秘められていました。
平成18年3月
関東鍼灸専門学校卒業
平成18年11月
茂原市に「なのはな鍼灸院」を開院
-----関東鍼灸への入学前は企業に勤めておられたと聞いておりますが。
日立製作所で品質保証の仕事をしていました。
-----硬いお仕事ですね。
とても硬い仕事です。品質を維持するためには、現象を全て論理的に説明し、整合性を保たなければなりません。「なんとなく、こうなった」は許されない世界です。
-----鍼灸とは真逆の世界に思えますが、何故この道を選ばれたのですか。
脱サラを考えたときに、「人の体を治療したい」という漠然としたイメージがありました。いろいろと調べるなかで、東洋医学の世界に今まで自分が触れたことのない未知なものとしての魅力を感じて、鍼灸を学びたいと思いました。
-----それにしても世界が全く違って大変だったのではないですか。
入試の面接で「あなたみたいなタイプは一番挫折しやすい」と言われました。
-----いきなりですか。
ええ。もし本当に入学するつもりがあるなら、「何故」を考えずに、そのまま受け入れてみて欲しいと言われました。当時は「えっ」と思いましたが、あの時、ああ言われて良かったと思っています。おかげで「まずはそのまま受け入れてみよう」と腹が決まりましたから。
-----抵抗感は無かったですか?
もう会社も辞めていたし、本当に切羽詰っていましたから。私ぐらいの年齢で、家族もいて学校に通い直すというのは本当に大変です。収入も途絶える訳ですし。卒業して資格を取ったらできるだけ早く開業しなければ、という状況でしたから必死でした。
-----卒業されて実際すぐに開業されたわけですが、不安とかはありませんでしたか?
全く無かった訳ではありませんが、早く治療できるようになって開業するために3年間勉強しました。ちょうど自宅も古くなってきていたので、リフォームするくらいなら、ということで鍼灸院を併設する形に建替えました。
広告や宣伝は手探りでしたが、周辺地域にチラシを配ったり、近所のスーパーに案内を置いてもらったり、あとHPにもこだわりました。
-----私もHPを拝見して「お客様の声」のページがとても印象に残りました。
あのページには一番力を入れました。鍼灸を学び始めてから知ったことですが、ある統計では鍼灸治療を受けたことがある人は全国民の5%程度しかいないということでした。鍼灸はほとんどの人が知らないマイナーな分野であるということですよね。全く知らない人たちに鍼灸をアピールしていくためには、実際に受けてくれた人たちを紹介すればいい、と考え作成したのがあのページです。
-----顔写真も載っていたり、年齢まで書いてあってとてもリアルな雰囲気が伝わってきます。
このページを見て、来院することにしたという方も結構いらっしゃいます。鍼灸治療に興味があっても、なかなか心理的な抵抗感が強いのが現状のようです。だからこそ、鍼灸は肩こりや腰痛だけでなくて、実はいろいろな症状を扱うことができるということをもっと一般の方に知ってもらいたいです。鍼灸院にこられる方は、それまでにいろいろな所に通ってみて、それでもだめで仕方なく来てみた、という方が多いです。で、しぶしぶ受けてみると、こんなにも体が楽になるのか、こんなにもいろいろな症状を変化させることができるのか、と驚かれる。こんなにいいものがどうしてもっと社会に広がらないのか、という思いがいつもあります。
-----業界団体レベルでの取り組みも必要ですね。
そうですね。鍼灸業界全体で、もっと一般の方々に鍼灸の良さを知ってもらう取り組みが必要だと思います。最近では美容鍼灸などにも関心が高いようですから、そうした部分をきっかけにして鍼灸の認知度をあげていけるのではないかとも考えています。
-----鍼灸師になって良かったなあと感じるのはどんな時ですか?
治療の終わった後に、患者さんから「楽になった」、「痛みが取れた」と感謝の言葉を頂いた時ですね。
企業の中で組織の一員として働いていたときはプロジェクトが成功しても達成感を感じることがあまりできなかったのですが、鍼灸師として治療がうまくいって患者さんに感謝されると何とも言えない感動があります。先日も患者さんから、それまで家の周りぐらいしか歩けなかったのが、治療を受けてからは旅行に出て山歩きもできるようになったとお礼の葉書をいただきました。そうした葉書は本当に宝物のように思えます。
-----直接患者さんから感謝の気持ちを伝えられるというのは、嬉しいでしょうね。
そうですね。もちろん自営業の大変さというのはあるのですが、今はこの鍼灸の面白さを日々味わっています。肩こりと一口にいっても、十人の肩こりの方がいれば、十通りの肩こりがあります。新しい患者さんがこられるたびに、どんな症状の方が来るのだろうと、ワクワクしています。
-----十通りの肩こりに対応するのは大変ではないですか?
そこが学校で学んだ積聚治療の優れている点だと思います。
患者さんは最も強く出ている症状を何とかしてくれと訴えてきますが、よくよく話しを聞いてみると、その裏には他にもたくさんの症状が出ています。そうした症状を全部ひっくるめて治療できるのが積聚治療なので、患者さんは体のあっちもこっちも良くなっていると驚いて帰っていかれる。細い鍼ともぐさを使っているだけなのに、どうしてこんなに体が変化するのか。
患者さんからも「何でこんなに治るんですか?」と尋ねられることが多いですし、自分でも不思議に思うときがあります。
-----何故、そんなに体が変化するのでしょう?
患者さんには「ご自分の体が治しているんですよ」と説明しています。鍼や灸もひとつの道具であって、その道具を使ってその人の体が良くなっていくスイッチを押していく、というのが私の治療のイメージです。
私が提供しているのはきっかけであって、治っていくのはご自身が持っている力なのです。ですから、人間の体は本当にすごい、という思いを日々新たにしています。
-----最後に、これから鍼灸の道を学ぼうと考えている方へメッセージがあればお願いします。
「鍼灸は面白い。」これに尽きます。鍼灸の世界自体も奥が深くて、非常に面白い世界ですし、鍼灸を通じてたくさんの人と接することができる。この楽しさを日々味わっていますし、もっと多くの人たちにこの面白さを体験してもらいたいと思っています。
-----卒業生の方に「鍼灸は面白い」といっていただけると、こちらまで嬉しくなってしまいます。今日はお時間をとっていただき、ありがとうございました。