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先生のコラム

本当は面白い易の話(5)

内原 拓宗

このコラムも何とか5回目を迎えることができました。
毎回、少しでも易の世界の面白さを伝えることができたら・・・と頭をひねっているのですが、これが中々に難しい。陰陽、三才、五行といった古代中国から日本に伝わり、日本でも伝統的伝わってきた「考え方」が、現代日本ではほとんど共有されていない。そうした現状の中では、出来るだけ現代社会で見られる現象に引きつけて、易の世界をイメージしてもうらしかありません。

ところが、ほんの100年ほど前には、全く逆の方向で苦労していた方がおりました。
1万円札にも描かれている、福沢諭吉です。

彼は九州の中津藩の下級武士の家に生まれますが、学問を重ねることで、やがて明治時代の文明開化をリードしていく存在になります。
有名な『学問のすゝめ』は300万部も売れたベストセラーとなり、明治時代の人々に新しい時代にふさわしい、近代的な思想を説き起こしました。

とはいえ、何百年も続いてきた伝統的な考え方に対して、西洋流の新しい考えを伝えていくのは非常な困難がありました。そこで、彼が用いた手法が、当時の常識であった、易や陰陽、五行といった考えを引用しながら、新しい時代の考え方を説明していく、というものでした。
実は、福沢諭吉の父親は儒学者で、本人も小さいころから伝統的な古代中国思想には精通していたそうです。

福沢諭吉の努力の甲斐あって、現代の我々は、すっかり西洋流のものの考え方をするようになり、昔から伝わってきた考え方は、カビの生えた古臭い物、という扱いになってしまいました。

・・・というわけで、今私が、苦労して易のコラムを書いているのも、もとを糺せば福沢諭吉のせい、ということになるわけです。(笑)

せっかくの福沢つながりですから、今回は、彼が初めてアメリカ合衆国に渡ったときに乗船した「咸臨丸」でも使われている「咸(かん)」を扱います。
(名前の由来は「臨」の方にあるのですが、それはまた別の機会に扱います。)

「咸(かん)」の字は下に「心」を置けば、「感」となります。刺激や情報を受けとめることを「感じる」や「感覚」と表現しますが、それだけにとどまらず、自然界におけるあらゆる化学的、物理的な反応を含めた意味を持っています。

前回のコラムで紹介した、易経の冒頭、「はじめに天と地があってそこから全てのものが生じてくる」その具体的な作用そのものを表しているのが「咸(かん)」といえます。

実は、易経は「上経」と「下経」に分かれていて、「下経」のトップバッターがこの「咸(かん)」になります。易経は「上経」が理論、「下経」が実践を説いていると言われますが、実践編の冒頭として、改めて万物が陰陽の交わりからなることを説いている訳です。

本校の創立者小林三剛は、この卦をひとことで「恋愛の卦」と表現しています。人間社会が、人と人が惹かれあい、関わりをもっていくことで成り立っていくことが端的に表されていると思います。

例によって陰(--)と陽(―)の記号の組合せで表すとこうなります。
 
 

人間にあてはめると、上のは未熟な女性、下のは未熟な男性を表しています。
女性が上(リードする方)で、男性が下(サポートする方)、というのも何とも味のある配置です。

ちなみに、福沢諭吉は奥さんひとすじで、家庭をとても大切にしていたと伝えられています。
「男女交際論」という本も出して、男性も女性も対等であるべきという、当時としては進歩的な主張を繰り返しています。1万円札に描かれているのも伊達ではない、ということでしょうか。

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